モザンビークはアフリカ南東部に位置する沿岸国で、近年高い経済成長を続けている国です。ザンベジア州は人口350万人と、モザンビーク10州の中でも最大規模の州ではあるものの、安全な水へのアクセス率は16.3%で、全国平均(36%)を大きく下回り、5歳児未満の死亡率も全国の中でも高い値となっていました。こうした問題の原因としては、長期にわたる戦乱と、戦乱後の開発の遅れやザンベジア州が首都マプトから約1,000kmと離れているなどの地理的な要因が挙げられます。
日本は2000年から2003年にかけてザンベジア州において無償資金協力事業で152本のハンドポンプ式深井戸を建設し、給水率の向上に貢献してきました。しかし、こうした施設が有効に活用されるためには、維持管理体制を強化して安全な水へのアクセスを持続的なものにするとともに、衛生施設の整備と衛生習慣の改善を図ってゆく必要があります。
こうした背景のもと、給水施設の維持管理体制の強化と衛生教育や衛生施設普及による衛生改善を目的として、この技術協力プロジェクトが立ち上げられました。
プロジェクトの活動対象地域はザンベジア州で無償資金協力によって給水施設が建設された8郡のうち、モクバ郡、イレ郡、ジレ郡、アルト・モロクエ郡の4郡を対象としました。
この技術協力プロジェクトの成果として、①行政府の体制強化、②対象コミュニティによる給水施設の運営・維持管理能力の強化、③対象コミュニティにおける衛生習慣の推進 の3本柱を上げていますが、それぞれは独立したものではなく、相互に補完してプロジェクト目標を達成するための相乗効果を生み出すよう、行政府からのトップダウンと、コミュニティからのボトムアップで構成されています。
プロジェクト期間は約4年間に渡り、3つのステージに分けて進められ、段階的に活動対象地域を拡大しています。
第1ステージ:2007年(6か月間):活動準備期間(行政機関への説明、ベースライン調査、既存給水施設の稼働教協調査等)
第2ステージ:2007~2009年(23か月間):活動対象4郡のうちの2郡(モクバ郡、イレ郡)を対象に成果1、2、3達成のための活動
第3ステージ:2009~2011年(28か月):活動対象4郡全て(モクバ郡、イレ郡、ジレ郡、アルト・モロクエ郡)に拡大した成果1、2、3達成のための活動
DAS職員に対する給水施設インベントリーの整備のためのGPS使用法の指導
ポンプ修理工へのトレーニング
プロジェクトの責任機関はモザンビークの公共事業住宅省(MOPH)で、州レベルでのプロジェクトの各活動の直接的なカウンターパートは、ザンベジア州公共事業住宅局給水衛生部(DPOPH/DAS)職員、郡レベルのカウンターパートは郡事務所職員です。これら行政府の能力向上支援(成果1)のため、次のようなプロジェクト活動をおこないました。
※モザンビークの地方給水・衛生セクターでは、地域住民の意識啓発、組織化や能力強化といった一連の住民参加促進・啓発活動をPEC(Promoção e Educação Comunitária)と呼び、これら活動には民間セクターを活用しています。
水衛生委員会への報告書作成指導
スペアパーツ管理に関する指導
対象コミュニティには既存の水管理委員会が存在しましたが、形骸化してその役割を全うしていないという問題がみられました。
そこで、プロジェクトでは対象コミュニティにおける給水施設の維持管理体制強化(成果2)のため、コミュニティ住民との協議を通じて「水・衛生委員会」とその下部組織である「メンテナンス・グループ」を対象として組織強化のための次のようなプロジェクト活動を行いました。
これらの活動は、上述の成果1のための活動を通じて育成されたPEC普及員を通じて各コミュニティで展開しました。
普及員による衛生啓発活動(適切な手洗いの指導)
トイレ建設工によるコミュニティでのトイレ建設作業
コミュニティにおける衛生習慣の促進(成果3)のための活動としては4段階に分けられ、1) PEC普及員による地域住民の衛生改善に対する意識付けと行動計画を作成し、2) コミュニティ・レベルでの人材育成を行った後、3) 各コミュニティが行動計画に沿って衛生環境と習慣を改善する取り組みを衛生普及員(衛生啓発を担うボランティア)が促進し、4)これをPEC普及員および 郡職員がモニタリング・フォローアップする、というアプローチを採用しました。コミュニティにおける衛生啓発・衛生普及を推進するための人材として、各コ ミュニティで「コミュニティ衛生普及員」と「トイレ建設工」を選定しトレーニングを行い、育成された人材を活用して次のようなプロジェクト活動を行いまし た。
ガイドライン、フォーマット類の一部
水・衛生セクター関係者へのワークショップ風景
これらの3つの柱から成る活動を通じて、プロジェクト終了後もモザンビーク側で独自 に他地域への活動を継続できるようなモデル設定と、プロジェクト期間を通じてこのモデルの検証を行ない、必要に応じてモデルに修正を加え、他ドナーや NGOsとの協議等の機会を有効に活用しつつ効果的な維持管理体制を構築しました。
そして、プロジェクトの終了に際しては、プロジェクトの経験に基づいた活動モデルとガイドライン、及びフォーマット類の整備を行い、今後のモザンビークにおける活動の継続と拡大のための資料として取り纏めとめました。
4 年余りにわたるプロジェクトの成果は、2011年1月に実施された終了時評価で実証され、プロジェクト対象地域のデータをプロジェクト開始時と2011年 1月で比較すると、安全な水を飲料水として利用する世帯は39パーセントから83パーセントと2倍以上になりました。また、衛生習慣である手洗いを実行し ている世帯は、6パーセントから48パーセントと8倍に増加、トイレを使用する世帯は31パーセントから54パーセントに増えました。
「最 初のころは日本人専門家任せで、会議を招集しても途中で帰ってしまうなど、とてもモザンビーク側の関係者が自立的にプロジェクトを進めていける状態ではな かった」と当社チーフアドバイザーが語るように、当初は実施体制の弱さにチームが苦戦する一面もありました。しかし、活動を続けていくことにより、プロジェクト関係者がこの成果をモザンビーク全土に普及させよ うと、首都マプトでセミナーを開催し、プロジェクトの手法と成果を報告するまでに改善されました。代表者は「今の自分たちにはプロジェクトを継続させる使命があり、その自 信がある」と述べ、この成果をモザンビーク全土に普及・定着させていく意思を力強く示し、本技術協力プロジェクトで効果が実証された手法を、国家プログラ ムを通じて全土に適用していく予定としています。