パキスタンはインドの北東に位置する南アジアの1国で、日本の約2倍の面積(79.6万km2)に約1.76億人 (2011年)を擁し、人口のほとんどが都市部に集中し、都市部の環境問題、特に固形廃棄物の処理が課題となっています。
本計画の対象地域であるラワルピンディ市は、首都イスラマバード市に隣接し、イスラマバードへの遷都が完了するまでの1960年から1966年にかけて、仮の首都が置かれていました。同市はイスラマバードへの首都移転後も予想以上に人口増加・都市拡充が進み、1995年時点でのごみ収集率は40%にとどまるなど、1970年に作成した同市の都市計画マスタープランの実施が困難となりました。パキスタン政府は「ラワルピンディ・パッケージ」と題し、廃棄物処理用車両の調達を含む環境整備事業を実施していましたが、この内の清掃事業用機材の調達について、日本に支援を要請しました。
本案件は、都市部における廃棄物処理機材の供与を行う無償資金協力であり、基本設計調査、詳細設計調査を経て、機材調達が行われました。ラワルピンディ市の廃棄物処理を担うラワルピンディ市役所(Rawalpindi Municipal Corporation : RMC)をカウンターパートとし、ゴミ量調査、収集・運搬状況調査、最終処分調査の他、機材整備工場(ワークショップ)の運営・維持管理能力調査を実施し、最適な機材計画の策定と、収集から処分場整備までを含んだ全体計画への提言を行いました。
オープンダンプ方式による投棄
提案した衛生埋立
供与されたコンテナとコンテナトラック
これまでのパキスタンにおける廃棄物案件では収集機材の調達が中心となっていましたが、より環境への影響を配慮し、本件では処分場に係る支援も行っています。
ラワルピンディ市の処分場は、単純投棄によるオープンダンプ方式だった為、ごみの飛散、悪臭・ハエ・カラス等による周辺環境の悪化、メタンガス等の有害ガスの発生、周辺表流水の水質汚濁などといった環境への悪影響が確認され、更にその処理能力も限界に達していました。この為、同市が新しく処分場(30万m3)を準備することとし、処分場候補地の地質構造、地下水位置、周辺状況およびRMCの維持管理能力等を十分に考慮した結果、セル方式による衛生埋立方式で整地・転圧・覆土を行い、環境衛生状況を向上することを提案しました。この方式はパキスタンでは初めての試みであり、後にパキスタンにおける廃棄物処分場管理におけるモデル・ケースとなりました。
また、市内ごみ集積場についても、道路脇に山積みされたごみのオープン式集積場から手作業の収集方式を、密閉式のコンテナによる収集方式に切り替え、市内の衛生環境・景観の向上に努めました。
調査の結果、日本から以下の機材調達が行われています。
収集用 機材 | コンテナトラック コンテナ |
処分用 機材 | ダンプトラック ホイールローダー ブルドーザー エクスカベーター 散水車 |
維持管理用 機材 | レッカー車 スペア・パーツ ワークショップ用工具類 |
UNDP SWEEPプロジェクト
上記機材調達後RMC職員によって保守・管理されていくことになります。当時、無償資金協力の廃棄物案件には、技術指導というソフト的支援(ソフト・コンポーネント)の活動を含むことは認められていなかったため、本件では、別の無償資金協力案件で設立された建設機械技術訓練学校(CMTI)で整備技術、運転操作、保管・在庫管理の訓練を受ける等のRMC職員に対する人材育成を提案しました。
また、本調査と同時期に、UNDP(国連開発計画)によりごみ処理運営に係るソフト面の整備を目的とする「SWEEP(固形廃棄物管理環境改善プロジェクト)」が実施される予定であったことから、RMCの廃棄物管理体制強化、3Rの促進、住民に対するごみの出し方指導等の活動が、本案件で調達した機材を活用しながら円滑に進められるよう、UNDPと双方の進捗状況を確認しながら案件を進めました。
ごみを捨てる住民
同市のゴミ収集率は、本件による機材調達と新収集システムの導入により40%(1995年)から90%台(2002年時点)へと、計画時の目標値である64%を大きく上回り達成されました。また、衛生埋立方式の導入により、処分場周辺の水の衛生状況が向上し、メタンガス発生による火災がなくなったとの報告もなされています。住民100人を対象に行ったアンケート調査(2002年)によると、およそ半数が、「ごみをコンテナに捨てる習慣が身についた」と回答しており、本案件がもたらしたインパクトが少しずつ発現しています。