アフリカ大陸の最北端に位置するチュニジアは、国土の大部分が砂漠地域であり、水資源が限られており、中部、南部地方では地下水資源に頼らざるを得ない状況です。チュニジア南部地域では地下水の塩分濃度が高く、更に気候変動の影響で降水量の減少及び沿岸地域での地下水塩水化の進行が予測され、飲料水の確保がより困難になることが懸念されます。
本計画ではこのような状況により水量確保が困難になると予測される南部地域の一つであるベン・ゲルデェーヌ地区(73,000人)において、逆浸透膜(RO膜)方式による地下水脱塩化システムの整備による飲料水の確保を支援しています。
本案件は、環境プログラム無償案件であり、気候変動の悪影響に脆弱な状況にある国々に対する支援を行うために2008年度に創設された無償資金協力のスキームの一つで、気候変動対策に係る機材の調達を行っています。
カウンターパート機関である水資源開発公社(SONEDE)により準備された計画取水井戸の揚水量、水質、計画対象地域の自然条件(地形、地質)等の現地調査を実施し、逆浸透膜法を採用した淡水量1,791m3/日を生産する淡水化プラントの建設、太陽光発電システム(210kW/h)の設置を行いました。
逆浸透膜ユニット
塩水の淡水化の方法には、主に「蒸発法」「電気透析法」「逆浸透膜法」の3つがありますが、中でも処理プロセスが簡単で、しかも経済的な方法が「逆浸透膜法」システムです。イオンや塩類など水以外の不純物は透過しない性質を持つ逆浸透膜を使い、安全な飲料水を提供することが可能になります。本対象地域が位置するチュニジア南部では、すでにこの逆浸透膜法を利用した淡水化プラントが4箇所で稼働しており、施設設置後の運営を担う水資源開発公社(SONEDE)もその維持管理方法を熟知していることから、本件でもこの方法を採用しました。
濃縮水を排水する天日乾燥ピット
逆浸透膜によって処理された後の不純物が濃縮された濃縮水については、通常近傍の海域へ放流していますが、隣接する海岸はラグーン状の閉鎖水域の一部を成し、ラムサール条約の指定サイトとして登録されている保護区となっています。
そのため、濃縮水の排水は天日蒸発処理を行うこととし、プラント建設地の隣に天日乾燥ピット(11.9ha)を建設することとしました。この方法はコスト・施工面でも優れ、降水量が少なく乾燥気候であるチュニジアの自然環境にも適しています。
濃縮水を排水する天日乾燥ピットは、土壌への濃縮水の浸透を防ぐため防水性の高い樹脂でピットの底面と法面を覆う構造としています。
太陽光発電パネル
淡水化プラントの課題点は、その稼働に膨大な電力を必要としていることです。消費電力が少ないといわれている逆浸透膜淡水化プラントでさえ、約40気圧の圧力で塩水を逆浸透膜に圧送する必要があるため、その稼働に500kW/hと多大な電力消費量が想定されます。
環境プログラム無償というスキームの本案件でJICAは太陽光発電の設置を積極的に奨励していますが、本件においてもこの膨大な電力を補完する目的で、1平方メートルあたり146Wの発電が可能な太陽電池を、882基設置しています。